2015.12.02(水)@東京・ZEPP TOKYO
(w/でんぱ組.inc)
オフィシャルライブレポート
12月に突入したばかりの東京はあいにくの天気。少々憂鬱なムードが街を覆っていた。しかし、Zepp Tokyo周辺だけは違った。なぜなら、今日は来年デビュー20周年を迎えるPUFFYの対バン企画第2弾『愛の説教部屋~萎えキュンソングを台場にお届け~』を見届けるために、大勢のオーディエンスが集結していたからである。しかも、今回の対バンはでんぱ組.inc!第1回はT.M.Revolution相手になんやかんやで仲睦まじいステージを展開させただけに、今夜もどんな化学反応が起こるのか楽しみでならない。しかし、でんぱ組.incといえば、今日本で最も人気のあるアイドルグループのひとつ。勢いと若さのある6人組に対して、PUFFYの2人は持ち前の緩さと豊富な経験でどこまで太刀打ち出来るのだろうか――。
ノーランズやアース・ウィンド・アンド・ファイアーといった70~80'sディスコヒッツが流れる場内が暗転したのは、定刻の19時を10分近く過ぎた頃。でんぱの登場を待つファンの大歓声と共にフロアのあちこちでサイリウムが6色に光り始めたが、まだちょっと気が早い。まずはこのイベント恒例となっている、PUFFYの説教タイムである。ブラックサバスチックなPUFFYの裏代表曲「小美人」が流れる中、怪しげな古城の窓を模したスクリーンに大貫亜美と吉村由美のシルエットが映し出され、早速でんぱ組.incに対する強烈なディスがカマされる。「でんぱ組.incって知ってる?」と問いかける大貫に対して、「最近調子に乗ってるグループでしょ?」と冷たく返す吉村。このやり取りにフロアは怒るどころかバカ受け。でんぱのことが嫌いなのかと問われると、吉村は「嫌いだよねぇ。だって、初代でんぱ組.incって私たちのことだと思うんだよね」とよく分からないことを言い出す。そんなこちら側の気持ちを知ってか知らずか、スクリーンには「もっと電波」というキャッチコピーと共に15年前に関西限定でオンエアされていた某携帯会社のCMが流れる。吉村がでんぱのことを気に入らないのはこのせい。最後に、「私たちがでんぱ組.incでもいいじゃないか!でんぱ組.incに入りたいだけなんです!!」と愛憎入り交じった絶叫を残し、暗転。
ここでようやくでんぱ組.incの登場だ。ギター、ベース、ドラム、キーボードの四人編成によるバンド演奏が始まり、紗幕が振り落とされると、そこには6人の姿が。そして、大声援とカラフルなサイリウムが迎える中、オープニングナンバー「NEO-JAPONISM」へと突入。タイトル通り、和のテイストがふんだんに盛り込まれた展開多めなハイテンションチューンに早くもフロアは熱狂。彼女たちのワンマンかと見紛うほどの盛り上がりである。続く「WWD」では、メンバー一人ひとりの個性を活かした独自の振付を見せながら、要所要所の決めどころではビシッと揃えるメリハリが格好良い。しかし、「でんでんぱっしょん」のイントロでは今日のイベントに対する不安をのぞかせるメンバーたち。
夢眠ねむ「愛の説教部屋とかいって、私たち、褒められて伸びるタイプなんだけどなぁ…」
相沢梨紗「芸能界は厳しい世界だよ…」
古川未鈴「でんぱ組って名乗れなくなるのかなぁ…」
いざパフォーマンスに移ると、アッパーなサウンドと美しい弧を描く見事なリボンさばきで、再びギアを上げる6人。しかし、続くMCでは依然としてひと回り以上も年上の先輩2人組にビビりっぱなし。いつもの「萌えキュンソングを世界にお届け!」ではなく、「萎えキュンソングを台場にお届け~」とゆる~く挨拶をしたあと、「うちら、世界に向けてやってたんだけど、PUFFY先輩に呼び出しくらいましたー!」と夢眠。その後、藤咲彩音が出番前に間違えてPUFFYの楽屋に入ってしまったことがメンバーから暴露されるも、「楽しいライブをしたら許してくれるかもしれないよ?」という相沢の言葉に一同奮起し、「キラキラチューン」~「くちづけキボンヌ」と序盤から一転、ミディアムテンポの楽曲で柔らかなムードを演出。この辺りの緩急の付け方が見事だ。バンド演奏も素晴らしく、あくまでもバッキングに徹しつつも、それぞれが質の高いシュアなプレイで6人を盛りたてる。
最後は最上もがが「みんな、そんなに汗かいてない! 気合いが足りないんじゃないか!?」と煽り、「アキハバライフ」~「Future Diver」で再びフロアに火を点け、50分のステージを終えた。はっきり言って完璧でスキのないパフォーマンスだった。PUFFYはなぜ彼女たちを対バンに誘ってしまったのだろうか。完全に6人の色に染め上げてしまったステージに出ていくのはあまりに荷が重い。大貫と吉村は果たしてどんな秘策をもってこの状況に立ち向かうのだろうか――。
さあ、いよいよPUFFYの登場である。しかし、場内は暗転したが幕は閉じられたまま。すると、グループ魂の面々が某韓流スターに扮するコントが聞こえてきた。そう、知る人ぞ知る怪曲「妖怪PUFFY」のオープニングである。下ネタがバンバン飛び出す内容に、でんぱファンは驚きつつも大ウケ。「その妖怪ってもしかして、こんな顔してました~?」というオチを迎えると幕が左右に開き、板付きのPUFFYとバンドメンバーが登場。「向かって上手が亜美だぞ! 向かって下手が由美だぞ!」という歌い出しのロックチューンが戸惑いに満ちた空気を切り裂く。ヤバい、バカバカしいのに格好良い。間髪入れずに披露した「サーキットの娘」では、サビで「オイ!オイ!オイ!オイ!」とオーディエンスが一斉に拳を突き上げ、ライブ前の不安が馬鹿らしく思えるほどの盛り上がりを見せる。
最初のMCで吉村が早速「でんぱ組がビビってるわけですけど、あれは説教されたがってるんですよ」と煽ると、フロアからは「俺もー!」とノリの良いでんぱファンの声が飛んでくる。それに対して「後で裏に来い!」と即座に返す吉村のセンスは相変わらずキレている。そして、話題はでんぱ組のメンバーカラーとサイリウムに。「私たちは(サイリウムじゃなくて)ゴボウでいいよね?」と笑わせる大貫に、吉村は再び6人に対する不満をぶちまける。「みんな色分けしてるじゃん? でも、一人だけおかしい子がいるよね」「えー? みりんちゃんは赤、りさちーは白…(中略)ねむきゅんはミントグリーン」「ほらそこ! そこは"緑"でいいんじゃないの? (中略)じゃあ、私たちが緑もらっちゃってもいいってことだよね」なんてやり取りが。そして、吉村はフロアに問いかける。「みんなには何色に見えるのー?」「ミントグリーン!」「お前ら、眼科行け!」もう、MCだけで最高である。
いつものようにのっけから長時間喋り倒した後は、90年代に活躍したアメリカのロックバンドJellyfishのカバー「JOINING A FAN CLUB」~「Hi Hi」と続き、名盤でありPUFFY最大のヒット作でもある「JET CD」のオープニングナンバー「ジェット警察」がプレイされると、フロアの熱気がぐわっと上昇。その証拠に場内のあちこちでミントグリ…いや、緑のサイリウムが揺れ始めている。
MCで再びでんぱのメンバーを丁寧にいじくり回した後、次に披露する新曲「パフィピポ山」の説明をする2人。これはサウンドプロデュースもふくちゃん、作詞前山田健一、作曲PandaBoY、編曲浅野尚志、MV監督スミネム(夢眠と映像作家スミスによるユニット)という、でんぱ人脈をフル動員した楽曲で、今回の対バンもこのコラボが縁となって実現したのだ。そして、楽曲説明の流れで大貫が口にした「うちらのライブには決まり事はないんですよ。だから、(サイリウムを)振ってもいいし、(ヲタ芸を)打ってもいいし」という言葉がでんぱファンを刺激したのか、演奏が始まった途端、一気にアイドル現場のような光景がフロアに広がった。PUFFYのカラーとして早くも認知された緑のサイリウムがガンガン振られ、ロマンスやケチャなど通常のPUFFYのライブではまず見られないヲタ芸があちこちで繰り広げられる。「アジアの純真」では、でんぱのライブでもなかった縦ノリが起こるなど、場内のムードはもはやPUFFYが完全に掌握。2人は、「盛り上がっていこう!」とか「かかってこい!」なんて煽り文句はひと言も発していない。ただ、「自由だから」とつぶやいただけ。それだけでフロアをここまで熱くさせたのだ。
本人たちは全く意識していないだろうが、いつもと異なるオーディエンスの熱に対して、それを上回るパワーで立ち向かおうなんて2人は端から思っちゃいない。相手の力に逆らわず、むしろそれを利用して自分たちの力にしてしまう、まるで合気道のような技を持っているのだ。大げさに聞こえるかもしれないが、このすごさはあの場に立ち会った人にしか分からない。
さらに、今日はでんぱファンが多いことは最初からわかっていたはずなのに、彼らに全く媚びないセットリストを用意したのも素晴らしかった。前回は「アジアの純真」で本編を終了させたが、今回選ばれたのはシングル曲ではない「DOKI DOKI」。マイペースというか、大胆というか。演奏陣もキャラの立ったパフォーマンスを見せた。特にギターの2人は度々ステージ前方に現れ、ロックンロール色の強いギタープレイでフロアを湧かせた。
アンコールではでんぱの6人が再び現れ、「おつかれサマー」を披露。しかし、どうも様子がおかしい。イエローの成瀬瑛美の姿がなく、その代わりに茶色のTシャツを着た吉村が歌って踊っているではないか。しかも、完璧な振付で。イベント冒頭で絶叫していた願いがここで叶ったのだ。しかし、ワンコーラス目が終わると、大貫と成瀬が慌ててステージに登場。「アンコールに行こうとしたら何者かに縄で縛られて、部屋に閉じ込められちゃったよ!」と成瀬が訴えると、皆の視線は吉村…いや、ゆみたそに注がれる……。そんな小芝居を楽しんだ後は、8人で「これが私の生きる道」を歌い上げてフィニッシュ。最後に吉村は「私たちも今度からペンライトが欲しいな!…いや、ごぼうか!」と言い残し、ステージを去った。
余談だが、ライブ後、駅のホームで筆者が電車を待っていると、興奮気味のでんぱファンがイベントの感想を語り合っている様子が目に入った。「こないだ、T.M.Revolutionとやってたんじゃん!そんなの絶対面白いじゃん!あーあ、俺、なんで気付かなかったのかなぁ!」大貫と吉村はでんぱファンの心をこんなにもガッチリ掴んでいたのだ。