パフィーが対バン「愛の説教小屋」~吉村、誕生日だってよ。説教してやろうぜ~
2016.01.30(土)@東京・品川ステラボール
オフィシャルライブレポート



この日の東京は寒かった。ビルの最上階へ目をやると、電光掲示板には"5℃"とある。しかし、雪が積もると言われていただけに、傘を持たずに済んだだけでもありがたい。品川ステラボールの外で開場を待っていたPUFFYファンもきっとそう思っていたことだろう。

そう、今日は「パフィーの愛の説教小屋」の第3弾、「パフィーが対バン『愛の説教小屋』~吉村、誕生日だってよ。説教してやろうぜ~ 町田の狂った兎 大貫亜美 vs 寝屋川のアナコンダ 吉村由美」である。これまで、T.M.Revolution、でんぱ組.incといった強者との戦いを経てきた2人が今回相見えるのはなんと相方。身内同士の仁義なき戦いである。記念すべき結成20周年イヤーに改めて結束を深めるか、はたまた袂を分かつことになるのか、すべては今日のステージにかかっているのである。しかし、一体どんな内容になるのだろう。2人がそれぞれのソロ曲を歌っておしまい? いやいや、そんなはずはないだろう。あのPUFFYがファンの予想通りのことをやるはずがない。

さらに、今日は吉村の誕生日ということで、開演前からお祝いムードが漂っていた。古今東西のバースデイソングが次から次へとBGMとして流れるのである。これじゃあまるで、「さあ、私のことを祝え!」と言わんばかりではないか。こんなコッテリ具合もPUFFYらしい。

そんな誕生日ムードにすっかり当てられた頃、"吉村由美の実姉"による注意事項が流れる。「アメ村でワルさを繰り返していたあのコ(吉村)が…」から始まる諸注意に場内はクスクス笑い。今日の展開の片鱗を掴んだところで、いつものおどろおどろしいオープニングムービーがスタート。

「ねぇ、亜美ちゃん。亜美ちゃんはPUFFYのリーダー何年ぐらいやってるの?」とリーダーの大貫に質問を投げかける吉村。さらに、「ギャラの取り分が8:2っておかしくない?」と問い詰める。レコーディングの時に出前のメニューを決める、ライブの打ち上げで乾杯の音頭を取るという"重要な仕事"があると言い張る大貫だが、PUFFYのためには自分がリーダーになった方がいいと吉村は主張。最後には「このババア!」「解散だ、解散!」という言葉が飛び交い、話し合いは決裂。「今日、この場で白黒つけてやろうじゃないのよ!」という吉村の絶叫が場内に響いた後、SEのHi-STANDARD「Can't Help Falling In Love」が流れだす。

まず、ステージ上に現れたのは4人のバンドメンバー、フジタユウスケ(G)、伊東ミキオ(Key)、BOBO(Dr)、木下裕晴(B)。なんと全員タキシード。そして、彼らに続いて登場したのは、この日の司会を務める茂木淳一。彼もまたタキシードにシルクハット姿でビシっと決めている。なんといっても今日は吉村の誕生日。正装は必須である。そんなステージを見つめる観客は、いつもと異なる流れにゴクリと息を呑む。「こんなふざけた展開で息を呑むってなんだ」と思うだろうが、何が起ころうとしているのかこの時点では予測不能だったのだ。舞台が整ったところで茂木は、大貫と吉村のどちらがリーダーに相応しいのか、会場にいるファンが決める「リーダー総選挙」の開催をアナウンスし、今日は2人が交互にステージに現れてパフォーマンスすることを知らせた。



そして、遂にライブスタート。茂木に呼び込まれた大貫がパジャマ姿で登場し、ソロデビュー曲「Honey」を披露。当時とは違って、深みのあるボーカルでじっくりと聴かせる。大貫が袖にはけると、今度は吉村が呼び込まれる。すると吉村は茂木に「亜美派か由美派かどっちかな?」と本人を目の前に答えづらい質問を投げかけ、"わいろ"と大書された茶封筒を手渡す。「困ります!」と最初こそ拒んだものの、結局タキシードの内ポケットにしまい込む茂木。ワイロ効果か、「いつもやさしくて、美人な吉村由美さんにさっそく歌っていただきましょう!」とあからさまに吉村寄りの曲紹介を受けて彼女が歌ったのはソロデビュー曲「V・A・C・A・T・I・O・N」。小西康陽によるポップなメロディを、当時と変わらぬ素直でのびのびとしたボーカルで披露。間奏では客席にもワイロの飴ちゃんを投げ込むことを忘れない。こんな風にして、「愛の説教小屋」史上最も茶番色の濃いステージが進行していく。

今日のイベントが面白いのは、ソロ曲を交互に披露していくことで2人のキャラがよりはっきりと見えてくること。英詞曲を中心にパフォーマンスする大貫のボーカルはかなり力強い。吉村がMCで「亜美ちゃんが『Radio Tokyo』歌って、ちょっと上手かったからカチンときた」と話していたように、ちょっと驚くほどの存在感だ。90年代オルタナティブロックが好きな人には、Juliana Hatfieldのような粗野さとキュートさが同居した声、と言えば伝わるだろうか。さらに彼女は「Dancing Queen」のカバーでエレキギターも披露してファンを驚かせた。一方、吉村は一切気負いを感じさせない、リラックスしたパフォーマンス。彼女の場合、初期の曲を歌ってもいい意味で以前のイメージと変わらない。ただ、大貫に触発されてか、徐々に歌唱に熱がこもっていく感じが伝わってくる。こうして2人の歌を聴いていると、如何にしてPUFFYの歌が成立しているのかを改めて実感させられる。

合間合間に匿名希望のバックバンドメンバーが大貫をディスったり、どこぞの幼稚園児たちが吉村をケチョンケチョンにこき下ろしたりするVTRが流れ、ファンがすっかりこの茶番を楽しんでいると、唐突にサプライズがやってきた。

最初に仕掛けたの大貫。往年のボディコンファッションに身を包んだ彼女が引き連れてきたのは土岐麻子。土岐が、「やっぱり私は亜美派だなと思ったことがあって。お寿司おごってもらったじゃない? それで」という雑なエピソードで笑いを誘った後、カバーを2曲立て続けにプレイ。まずは言わずと知れた大名曲「Can't Take My Eyes Off You」。そして、Sheryl Crowによる90年代のヒット曲「If It Makes You Happy」。大貫はエレキギター、土岐はアコギを手に息のあったハーモニーを聴かせた。



場の空気を一気にかっさらったのは吉村。「20年来の親友の歌を1人で頑張って歌いたいと思います」と相川七瀬の大ヒット曲「夢見る少女じゃいられない」を歌い始める。そして、2番に差し掛かったところで、彼女の背後から白いライダースジャケット姿の本人が登場。この粋な演出に客席は大盛り上がり。続いては、同じく相川の大ヒット曲「彼女と私の事情」を披露。この歌詞は、当時一緒にお風呂に入るぐらい仲の良かった吉村のことを思って相川が書いた曲だという。

まさかのゲストに興奮冷めやらぬ客席。「一瞬、PUFFYのことを忘れてしまうような、熱のこもったステージ」という茂木の表現は決して言い過ぎではない。双方の持ち曲はこれにて終了。佳境を迎えたリーダー総選挙は観客の拍手の音量で決することになった……はずなのだが、「ビデオもワイロも中途半端なんだよ! アナコンダじゃなくて、アナダラケだよ!」「優等生ぶって、英語の歌ばかり歌いやがってよ! 家でいつもマンガ読んでんじゃねぇかよ!」とここにきて2人が大揉め。そんな様子に業を煮やした茂木が、「この茶番はなんだよ! そこそこ歌が上手くて、けっこうかわいくて、仲が良いのがPUFFYだろ!」と大爆発。無理やり2人に仲直りの握手をさせ、衣装を着替えてくるように指示。2人はステージを一旦降り、再び戻ってきたのだが、2人が姿を現した途端に驚き混じりの歓声が飛ぶ。なんと、2人ともデビュー当時によく着ていた懐かしの水色のTシャツを着ていたのだ。そして、改めてお互いに謝罪した後、遂に2人揃ってのパフォーマンスが始まる。

まずは「パフィーのルール」。この2人が揃うだけでこんなに違うかと思うぐらい前のめりなパフォーマンス。そうだ、これこそがPUFFYなんだ。その後、「パフィピポ山」、「Hi Hi」、「赤いブランコ」、「アジアの純真」と一気に畳み掛け、あっという間に本編は終了。





アンコールでは、最後に披露する「ともだち」にまつわる思い出を語ろうとした吉村だったが、ここで突然ハッピーバースデイの歌と共にケーキが登場。祝われることが苦手という吉村だが、「今日はこんなに来ていただけてうれしいです」とファンへお礼。そして、デビュー20周年記念ベストアルバム「非脱力派宣言」リリースのサプライズ告知でお返しをした。そして、「ともだち」をプレイし、これで終わりかと思いきや、大貫がBOBOに代わってドラムセットにスタンバイ。彼女がドラムを叩くから、吉村は"アノ曲"のボーカルを1人でやれという。そう、これは大貫から相方への最後のサプライズ。ケーキが出てくるところまでは予想していた吉村もこれは予想外だったようだ。そして、プレイしたのはPUFFYの「ハッピーバースデイ」。意外なことに、大貫のドラムが実に上手かった。3人のプロドラマーから教わったと言っていたが、それだけで叩けるものではない。きっと、しっかり個人練もこなしたんだろう。相方への愛あふれるアンコールにグッときた。



最後は、全出演者から吉村に花が渡されてエンディング。バカバカしさに溢れた3時間はPUFFYのライブ史上最長だという。しかし、不思議と長さは感じなかった。台本が練られていたことも理由のひとつだろうが、それ以上に演者全員がこの茶番劇を楽しんでいたことが大きい。そんなPUFFYが好きなんだ。